らくがきちょう

文字数制限の無いTwitter的な

絵画商法にアート(技)を見た日

 好きな絵師さんの画展が近所で開催されると聞いたので行ってきました。

 画展は良いですね。原寸大だし、解像度も無限に近いし、特殊な素材使ってたらその画集やPC画面では抜け落ちてしまう質感があるし、原画なら絵の具の凹凸もあるし、それらを通して筆の運びや身体が見えるような気がするし、なんというか絵画って二次元じゃないんだ的な感動をいつ行っても覚えます。

 ただ今回は入ってみると絵師さんのキャリアの割に展示数がやや少なく、手前にあったギャラリーショップも物足りない感じで(入場料無料なのに?っとここで違和感を覚えた)、値札が一部でなく全作品についていて(警戒心が高まった)、椅子と机とイーゼルがたくさん用意してあって、じーっとみてると半分過ぎた辺りでスーツのお姉さんが話しかけてきた!なるほどこれが絵画商法、こういう絵師さんのもあるのか…。しかも原画じゃなくて版画らしい。いやまあ版画でこんな表現できるんだっていうのは驚きではあるけれど。

 それはそれとして素敵な画は見ていきたいしお姉さんもすぐ「ごゆっくり~」って解放してくれたので順に見ていって、ときどき話しかけてくるのに答えたりしながら完走し、2周目行くかと思ったところで感想を尋ねられたりして会話していると、なんだか本当に買ってみたい気持ちがちょっとずつ芽生えてくるのに気づき、怖ろしくなった。

 怖ろしくなる一方、自然に商談に持っていくためのテクニックが完成されすぎているのがかえって面白くもなってきてしまい、ついのらりくらりと出方をうかがいまくって長話してしまった。最終的に怖い人が出てくることもなく向こうが諦めてくれて事なきを得たのでよかった。

 以下、その「完成されすぎている」と感じたセールストークの技術に関するメモ。

 

  1. 話しかけるタイミングと内容の発展のさせ方
     1回目は半分ぐらいのタイミングで「この作家さんはご存じでしたか?」とか「本物っていいですよね~」ぐらいの簡単な質問ですぐ「ごゆっくり~」と解放。2回目は3/4ぐらい回った辺りで「この作品いいですよね」から始まって「画展とかよく来られるんですか?」などちょっと踏み込んだ話。3回目は1周し終わって2周目どうしようかなと考えてるタイミングで寄ってきて「どの作品が良かったとかありましたか?」という感想戦からの、「絵って光の当たり方でもけっこう印象変わるんですよ~ よかったらイーゼルのお席で光当てながらご覧になりませんか?」とそのお気に入りの1枚とともに席へ誘導。この席で、後で紹介するテクニックの数々がさらに繰り出された。

     ここまでの流れの時点で結構考えられてるなと思う。1回目・2回目は一般的な話と、「私もこの絵や作家さんのこういうとこ好きなんですよね~」ぐらいで留め、あくまですぐに解放することで、警戒心を弱めさせていると推測。複数回に分けるのは「すぐ解放」を印象づけるためと、話しかけてくる女性を邪険に扱うようなややこしい奴じゃないかの確認も兼ねてると思われる。あと職業の確認とかもきちんと入った。フリーターですとか言ってたらルート分岐したのかな。
  2. 全肯定
     とにかくすべてのリアクションを肯定してくれる。「わかります」「ほんとそれですよね」「えっすごい」「そうなんですよ~」などの嵐。まあ悪い気持ちはしないのが悔しいところ。でもおじさんね、素直に喜んで心開けるほどまっすぐな心をもう持ってないんだ、ごめんよ…

  3. 「絵のある生活」の想像をかき立てる
     「光の当て方で印象変わる」の話から、「なのでたとえば窓際に置いておくと朝の光、昼の光、夜の蛍光灯、それぞれ違う表情を見せてくれるんですよ」とか、「『飾ってみた』ってお部屋のお写真送ってくださるお客様もいるんですよ~」って部屋に置かれた絵の写真を見せてくれたりとか、「絵を肴にお酒を飲むってお客様もいらっしゃいますね~」とか、「帰ってきて今まで何も無かった壁に絵があるとやっぱいいな、って思ったっていうご感想もよく聞きますね~」とか、絵と日常生活の距離を縮めようとしてくる。これは個人的に結構効いた。その想像は確かに甘美。ただ幸か不幸かこれ↓を思い出してしまい我に返ることが出来た。ありがとう生ハム原木。

  4. たくさんの人がすでに買って満足しているという話
     まあ定番だけど、飾られた絵の写真とか含め、たくさんの人がすでに買っていることを匂わせる話が巧みに織り込まれている。値札にも「○○様売約済み」という札が付いてる作品がいくつかある。多くの人が買っているというだけで安心感ありますよね。まあAmazonのレビューは信じられませんが…
     それと「皆さん買うときには悩みはりますし、夫婦げんかになったりする人もいますから(=あなたが悩むのも当然です)」という、全肯定の派生技みたいな寄り添い小技も。それでも最終的には全員良い思い出になっているらしい。最低でもネタになると(お前が言うな!と言いたくなるのを社会性フィルターで押さえ込む)

  5. 数に限りがある&後で買うぐらいなら今の方が安い可能性が高いという話
     これも定番だけど、まあくすぐられますよね。特に今回は複数の絵師さんの画展が同時開催されていて、平均価格が年齢順になっていて、それも「今が一番安い」の説得力に一役買っている。なるほどそのための同時開催か…とつい邪推。

  6. 月割りや日割りで考えると意外と高くないという話
     何十万円もする絵だけど分割払いにすれば手数料込みでも月々数千円なので携帯代ぐらい!さらに日割りで考えると1日300円強!コンビニスイーツ我慢する程度のことで自宅に絵のある文化的な生活!「大阪の人によく聞かれるんですけど」というギャグっぽい出し方もポイント高い。ここからさらに「残りの人生で日割りしたら今買うのが一番安い」説でも繰り出されてたらやばかったかもしれない。

 

 印象に残ってる内容としてはこんな感じ。アート・オブ・セールス・オブ・アートだった。入場無料は撒き餌。ただより高いものはない。この世の真実を垣間見た休日でした。